2stroke with powerband -It's always smokin' on the road.


2ストロークエンジンの排気システム
2ストロークエンジンの動作 吸気形式いろいろ 掃気について 排気システム
2ストロークエンジンの排気はピストンが下降しシリンダ壁面に設けられた排気ポートが開くことで始まる。
排気ポートが開くと燃焼ガスはチャンバーへと流れ出す。、さらにピストンが下降すると排気ポートより下に設けられている掃気ポートが開く。ピストンの下降によりクランクケース内の新気が押し出され掃気ポートから燃焼室に流れ込む。
燃焼室に流れ込んだ新気は残留排気ガスをチャンバーへと追い出していくのである。
しかし、コレで終わりではない。チャンバーへと流れ出た排気の圧力波が反転して、燃焼ガスを追い出しながらさらに自らも流れ出ようとする新気を燃焼室へと押し戻す。そして下死点を過ぎ上昇を始めたピストンが掃気ポートを閉じ、さらに上昇して排気ポートを閉じるところまでが2ストロークエンジンの排気行程である。
☆排気チャンバー
2ストロークエンジンのマフラーは「チャンバー」と呼ばれる。
単に消音のためのパイプではなくリッパな排気システムである。
排気ポートが開き、エキゾーストパイプに燃焼ガスが流れ込む。エキゾーストパイプからダイバージェントコーンと呼ばれる開放部に達すると負圧波が発生し、エキゾーストパイプ内の圧力が下がり排気ポートからの排気を促進する。ストレート部を過ぎコンバージェントコーンと呼ばれる絞り込み部分に達すると圧力が高まり正圧波がチャンバー内を反転、掃気作用によって燃焼ガスを追い出しなおも排気ポートから流れ出そうとする新気を燃焼室内に押し戻す。これが排気チャンバーの持つ機能である。チャンバーは排気のみならず吸気にも影響を与える。負圧波を発生し排気を引き出そうとするときに掃気ポートが開いていれば、クランクケースからキャブレターまで影響を与え強力に燃料を吸い出して混合気を燃焼室に追い込んでいく。
シンプルな構造ながら排気脈動を利用して充填効率を高めハイパワー引き出す重要な機能部品なのである。。
☆パワーバンド
当たり前の話だがチャンバーの寸法は一定である。回転数によって伸び縮みしないのである。
圧力波は音速で動き、音速は温度が高いほど速くなる。また、チャンバーの寸法が短ければ反射波は速く帰ってくる。
高回転のときは燃焼してから排気ポートが開くまでの時間が短く排気温度が下がらないため高速の圧力波が打ち出される。
また燃焼間隔も短いからそれに合わせて短いチャンバーを付けてやれば速いタイミングで反射波が帰ってくるので充填効率が高まり高出力が得られる。
反面、低回転時は排気ポートが開くまでの時間が長く、排気温度が下がるので高回転時に比べれば遅い圧力波となる。
遅い圧力波に合わせて長いチャンバーを付けてやれば反射波はゆっくり帰ってくるので充填効率が高まるが、チャンバーは伸び縮みしないので高回転に合わせたチャンバーではタイミングが合わず充分な出力が得られないのである。
コレが2スト特有のパワーバンドと呼ばれるものの正体だ。狙った回転域では高出力を発揮してくれるが、それ以外の回転域ではパワー感のないスカスカなエンジン特性となってしまう。2ストエンジンの欠点であり、パワー感のコントラストの強さは最大の魅力でもある。
パワーバンドつながりで・・・。「台形パワー」?
1989年のことだっただろうか、「台形パワー(カーブ)」なることばがでてきた。
1990年のNSR250Rはたしか8500回転くらいから12000回転くらいまで約3000回転の幅に亘って最高出力45PSを出し続けるとかいっていた。パワーバンドを広げ乗りやすい2ストとかいっていたような気がする。これを聞いたとき、「うまいこといってごまかすもんだなぁ」と思った記憶がある。「台形トルクカーブ」とか「フラットトルク」であるならすばらしいエンジンであるが、「台形パワー」なんざそんな上等なものではないのである。
馬力やらトルクを語る人間であれば当然知っているであろうが、「トルク×回転数÷716」、これが馬力の計算式である。
トルクの値が一定(フラットトルク)であるならば、回転が上がるほどに馬力が出るということが、この計算式からもわかるはずだ。
2ストエンジンは有効なトルクの発生回転域が狭い。とくに高回転型のエンジンほど中低回転でのトルクが細くなりがちで、フラットなトルクカーブを得るのが難しい。だからこそパワーバンドが存在するのである。
さて、件の台形パワーであるが、8500回転で45PSを発揮し、その後、回転が上がっていくのに馬力は一定のままである。ということは、回転が上がるに従いトルクが低下し続けていくことになる。8500回転で45psならばトルクは3.79kg/mだ。12000回転でも45psならトルクは2.68kg/mになってしまう。パワーバンドにおいて充填効率が高まり、大きなトルクを発生して大馬力を稼ぐ2ストエンジンなのに、パワーバンド内でトルクが低下していくという珍妙なことをしている。回せば回すほどトルク感が希薄になるエンジン特性ではパワーバンドを使った2スト本来の走りを楽しむことは出来ない。いうなればパワーバンドを感じることが出来ない哀しい2ストエンジンである。もちろん、メーカーは好きこのんでやったことではないだろう。本来であれば、はるかにパワーの出るエンジンを当時の250ccバイクの自主規制値45psに合わせ、泣く泣く45ps以上出なくしただけのことである。仮に8500回転でのトルク値3.79kg/mが12000回転まで出続けるとしたら、10000回転で約53PS、12000回転では約63.5PSもの馬力が出力される。
高いトルクがなるべく広い回転数に亘って発揮される、こういうエンジンこそ「パワーバンドが広くて扱いやすいエンジン」というべきだ。
どうせ馬力規制をかけるなら、目一杯回して45psのエンジンほうが、はるかに2スト250バイクを楽しめたであろう。
まぁ、レースで使用されることを大前提におき、馬力を規制しているモノを取っ払ってやれば本来の馬力が出ますよということなのであろうが、そのわりに「台形パワー」などと称して純真無垢なユーザーをたぶらかすのはいただけない。
ついでにチャンバーメーカーで「フラットトルクで台形パワーを実現!」などというありえないを言っていたトコロも同罪である。
☆排気デバイス
パワーバンドは2ストロークエンジンの最大の魅力だが、高回転高出力化を進めていくほどそのコントラストは強まり、実際のライディングの上では非常に扱いにくいエンジン特性となってしまう。低回転での馬力がなければ発進もままならず、コーナリング中に回転が下がりパワーバンドを外したら、鋭い立ち上がりは期待出来なくなるし、バンクしている最中にいきなりパワーバンドに入ってしまうことを考えると恐ろしくてアクセルもおちおち開けられないことになってしまう。そこで考えられたのが排気デバイスである。現実問題としてチャンバーを回転域にあわせて伸び縮みされることは出来ない。そこで排気ポートの高さを変えて排気タイミングをずらしたり、排気ポート直後にバルブで開閉される小部屋をつくり排気圧力波を寄り道させ同調のタイミングをずらすシステムが考えだされた。
サブチャンバー型
カワサキの排気デバイス「KIPS」
Kawasaki Integrated Powervalve System
シリンダの横に主・副排気ポートとつながったレゾネータ室を設け、円筒形のバルブでこれを開閉している。低回転時には副排気ポートは閉じられており、主排気ポートからレゾネータ室に圧力を逃がし、低中回転型に同調タイミングがずらされる。高回転時にはレゾネータ室は閉じられ、代わりに副排気ポートが開き早いタイミングでチャンバーへ排気が行われ高回転型の反射波が得られるようになっている。3WAY−KIPSと呼ばれるものは主排気ポートの高さを変えることも行われている。
スズキのSAEC、ホンダのATACもサブチャンバー型の排気デバイスである。
可変排気ポート型
これはスズキのAETCと呼ばれるシステム。
低回転時にはバルブが下がり排気タイミングを遅くする。
高回転時にはバルブが上がり早い排気タイミングを得られるようになっている。ヤマハのYPVS、ホンダのRCバルブが同様のシステムだ。
排気デバイスの嚆矢はヤマハのYPVSだ。そもそもは厳しくなった排気ガス規制をクリアするために、低回転時の未燃ガスの吹き抜けを防止するために考え出されたシステムらしい。本来の目的よりも実質的なパワーアップという形で実現しその後の2ストエンジンに大きな影響を与えたシステムといえる。
2ストロークエンジンは未完成である。
時代遅れのシステムなのではなく未完成のシステムなのだ。未完成であるがゆえにそれを愛してやまない者たちがいる。
2stroke with powerband. light-weight & high-power, it's always smokin' on the road.
“軽量にしてハイパワー、それはいつも路上でくすぶっている”
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